スピード違反

昔、山あいに住み畑を耕す農民がいたとしよう。仮に吾作としておこう。ある晩、吾作一家に強盗が来たのだ。刀を突きつけられ、家のものはすべて奪われた。吾作はガタガタ震えながら、(命ばかりは助けてくだせえ、後生です〜!)と懇願した。すると強盗は仲間同士で殺る?殺らないと相談している。吾作一家は気が気でない。すると強盗は、(しょうがねえ、命は助けてやるか。)と言った。吾作は極度の緊張から解放され、(ありがとうございます!ありがとうございます〜)と土下座してお礼を言った。めでたく翌日から普段通り畑仕事に打ち込む吾作だったが、(はて、なんで強盗に身ぐるみはがされた上に、ありがとうなんてお礼まで言わにゃあならんのだ!)と、怒りと惨めな気分がごっちゃになって襲ってきた。
なんのこっちゃらと皆さん思うだろうが、最近そんな気分になる出来事があったのだ。
車で湾岸線に乗っていた時だ。私は一番右の車線で快調にとばしていた。すると後ろからパトカーに追いかけられ、停めさせられた。そう、スピード違反だ。私はパトカーに移動させられた。警官の話では35キロオーバーで罰金3万5千円、三点減点だそうな。私の目ん玉はコロンと落ちた。スピード違反は初めてだったが、罰金がそんなに高いとは!3万5千円あれば、いろいろ買える。いや、それ以前に生活が大ピンチを迎える!頭に暗雲が立ちこめていた。しかし免許をだし、仕事で急いでいたことを告げると、(免許もゴールドだし仕事で急いでいたということで右車線を一キロ走った罪、罰金六千円の一点減点にしてあげましょう)と言った。その瞬間暗雲は去り、頭は晴天になった。3万5千円と6千円では雲泥の差だ。本当は6千円でも痛いのだが、その時は6千円なんてチョロイぜ!という気持ちになっていた。(人に頼みごとをする時に、まず無理めな頼みごとをして、その後に譲歩した頼みごとをすると思わず引き受けてしまうことがあるそうな。なんかその時の心理に似てるような...)
 私は思わず、ありがとうございます!と警官に言っていた。
キップをきられ走り出した後、ハッと我に帰った。(違反で捕まるのはしかたがないが、何もありがとうなんて言う必要ないじゃないか!罰金だってとられるのに!オレのバカ、バカ、バカァ〜ン)怒りと卑屈な自分に対する惨めな気分を味わいながら帰路についた。話がくどくてすみませんでした。それだけの話なんだけど。